カテゴリー: きもちの話

  • 子どもに「これなに?」と聞かれた日のこと

    子どもに「これなに?」と聞かれた日のこと

    夕ごはんの支度をしていたら、娘がキッチンに入ってきた。

    クローゼットに置いていた竹炭を手に持って、「ママ、これなに?」と聞いてきた。真っ黒で、ごつごつしていて、子どもの目には不思議なものに映ったんだろう。

    「炭だよ」と答えたら、「食べるの?」と返ってきた。思わず笑ってしまった。


    素材の話を、ちゃんとしてみようと思った

    食べるものじゃないよ、と説明しながら、じゃあこれはなんのためにあるの?という話になった。

    湿気を吸ってくれるんだよ、空気をきれいにしてくれるんだよ、と言葉を探しながら話した。娘はふーんという顔をしながら、でもなんとなく聞いていた。

    そのあと、ダイニングテーブルに置いていた亜麻草の鍋敷きも指差して、「これも?」と聞いてきた。これはね、植物からできてるんだよ。リネンって知ってる?と話したら、首を横に振った。そりゃそうだ。


    なんで自然素材を選ぶのか、改めて考えた

    子どもに説明しようとして、自分でも整理できていないことに気づいた。

    なんとなく好きだから、では弱い。見た目が好きだから、も本当だけどそれだけじゃない。

    しばらく考えて、出てきた言葉は「長く一緒にいられるから」だった。

    化学素材のものが悪いわけじゃない。でも、土や植物から生まれたものは、使っていくうちに馴染んでいく感じがある。竹炭は天日干しをすれば繰り返し使えるし、亜麻草の鍋敷きは洗うたびに少しずつ柔らかくなる。消耗品として使い捨てるんじゃなくて、一緒に時間を重ねていけるものが、今の暮らしには合っている気がする。


    子どもに伝えられることが、増えていけばいい

    娘はもう別のことに興味が移っていたけれど、私の中には少し残った。

    自分が選んでいるものの理由を、ちゃんと言葉にできるようになりたい。「なんとなくいい」じゃなくて、「こういう理由でいいと思っている」と話せるように。

    急がなくていい。少しずつでいい。子どもに聞かれるたびに、一緒に考えればいい。

    そういう時間が、この暮らしにはある。それが、ここに来てよかったと思う理由のひとつだ。

  • 梅雨の湿気と、頭痛と、ここに来た理由

    梅雨の湿気と、頭痛と、ここに来た理由

    梅雨になると、空気が重くなる。

    兵庫の北は湿気が多くて、この時期は窓を開けても開けなくても、どこかじっとりとした感じがある。以前の私なら、この湿気が大嫌いだった。頭痛がひどくて、天気予報よりも自分の頭のほうが正確に低気圧を知らせていた。

    でも今は、不思議とそこまで悪くない。


    溺れそうだった、あの頃

    都市部で働いていた頃の話をすると、夫は今でも少し眉をひそめる。それだけ、しんどそうに見えていたらしい。

    朝から晩まで、誰かに気を使って、誰かのペースに合わせて。仕事だからそれは当たり前だと思っていたけれど、家に帰っても頭の中は仕事のことでいっぱいで、子どもたちの顔をちゃんと見られていなかった気がする。

    「このままでいいのかな」と思い始めたとき、夫が言った。「場所を変えてみようか」と。


    旅先で出会った景色が、ずっと頭にあった

    ここには、子供を授かる前に、夫と2人で一度だけ旅行で来たことがあった。

    そのときの印象が、ずっと頭の隅に残っていた。山の緑が深くて、空気が違って、すれ違う人がなんとなく穏やかで。「こういう場所に住んでいる人は、どんな毎日を送っているんだろう」と思いながら帰ったことを覚えている。

    だから夫の一言に、すぐ「ここがいい」と答えた。


    来てみて、わかったこと

    住んでみると、想像通りの部分と、想像以上の部分があった。

    時間がゆっくり流れている、というのは想像通りだった。忙しい日だってある。子どもの送り迎えも、仕事も、家のことも、やることは都市部にいた頃と大して変わらない。でも、なぜか心が穏やかでいられる。

    近所の人がよく声をかけてくれる。子どもたちが外で遊んでいると、近くのおじいさんが「元気やなあ」と笑いかけてくれる。それだけのことが、思っていた以上に心に響く。

    子育てのしやすさも、都市部とは全然違う。前は近くで子供と遊ぶのは公園しかなくて、今は自然の中で子どもたちが思い切り走れる。それを隣で見ながら、「ああ、これでよかった」と思う瞬間が何度もあった。


    夫に、ありがとう

    引っ越しを提案してくれたのは夫だけど、実際に仕事の環境を整えてくれたのも、子どもたちの転園の手続きをほとんどやってくれたのも、夫だった。

    「ありがとう」をちゃんと言葉にしたことが、あまりなかったかもしれない。ここに書いておく。


    梅雨の湿気も、悪くない

    あの頃の頭痛が、今は少し和らいでいる。湿気は変わらずあるのに。

    たぶん、体じゃなくて心の問題だったんだと思う。

    雨の日の庭を眺めながら、コーヒーを飲む朝。それだけで、今日も悪くないと思える。そういう毎日が、ここにはある。